はじまりは政略結婚
兄が連れていってくれた店は、私も数回訪れたことのあるエスニック料理の店だった。

赤が基調の店は、独特なスパイスの香りが漂っていて、食欲を刺激する。

「このお店に来たのは、久しぶりよ。ちょっと元気が出てきた」

顔パスの兄のお陰で、静かな個室で過ごせるのはありがたい。

まだまだ、騒がしい環境にいるには、気持ちがついていかないから。

私は顔パスはきかないし、そういう『特別』感が苦手だったりするから、今まで個室に入ったことはない。

だけどそんな私と違って、兄はそれだけのことをしているし、きっと智紀もそうなんだろうと考えてしまい、落ち込んでしまった。

結局、何をしてもどこにいても、智紀に結びついてしまう……。

「智紀のこと、思い出してる?」

うつむき加減の私に、兄が優しく問いかけてきた。

「うん……。変でしょ? 自分からプロボーズを断っておいて。普段どおりにしなきゃって思うのに、なかなかできないの」

それでいて、事情を話せない私を、兄はきっとワガママだと思っているだろうな……。
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