はじまりは政略結婚
そんな彼女の優しさに、心が温かくなると同時に、こうやって来てくれた智紀を見て、ときめく気持ちを抑えられなくなる。

ドキドキと高鳴る胸元に手を当て、彼から目を離せなかった。

「悪いけど、ドアの外から聞かせてもらったよ。ふたりの会話。といっても、里奈から何も聞き出せてないのには、ちょっと笑えたけど」

苦笑いで私を見た智紀に、ますます胸がキュンとする。

久しぶりに会えただけで、こんなにも嬉しくて、好きだと思う気持ちでいっぱいになるなんて……。

「智紀には、関係のないことだから出て行って。だいたい、由香さんとは婚約破棄をしたんでしょ?」

かなり焦りの色を見せる里奈さんに、智紀は厳しい視線を向けた。

「婚約破棄なんてしていないよ。そんな噂はたっているみたいだけどな。オレは、プロポーズを断られただけ」

ゆっくりと、まるで怒りを抑えるような口調だ。

「なにそれ? どういうこと? だって、由香さんは海里に婚約破棄をしたって……」

そこまで言った里奈さんは、ハッとして両手で口を覆った。
< 286 / 360 >

この作品をシェア

pagetop