はじまりは政略結婚
「智紀……?」

見上げた彼の目は、少し赤くなって……涙が浮かんでいた。

驚きで言葉を失う私に、智紀は涙を流すことはせず唇を重ねたのだった。

優しく包み込むようなキスに、柔らかく私の体を撫でる手。

自然と体がベッドに横になり、ゆっくり服を脱がされる。

唇から首筋へ、そして胸元にたくさんのキスをしてくれた智紀は、もう一度唇に戻ってきた。

「オレも、愛してるよ由香。言葉だけじゃ、足りないくらいに」

愛おしそうに言ってくれたその言葉が、涙の意味だったのかもしれない。

本当の幸せって、愛する人がいて、その人から愛されて……そういうことなのかもと、智紀を好きになって初めて思った。

もう、この温もりを離さない。

私は智紀を愛しているから……。
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