はじまりは政略結婚
一人残されリビングへ戻ると、ふとダイニングテーブルに、朝ご飯が置かれているのが目に入った。

しっかりと黄身の固まった目玉焼きの隣には、きつね色のトーストがあり、横にはジャムとマーガリンが並んでいる。

「まさか、智紀が用意してくれたの?」

ゆっくり近寄ると、メモ用紙に走り書きがされていた。

『冷蔵庫に飲み物とヨーグルトがある』

朝ご飯はまだ温かさが残っているから、きっと用意してから起こしに来てくれたみたいだ。

まだ6時だというのに、バタバタ出勤していった智紀は、これを用意するだけでも大変だっただろうに……。

思いがけず彼の優しさに触れ、胸に熱いものが込み上げてきた。

冷蔵庫を開けると、オレンジ100%ジュースに牛乳がある。

そしてヨーグルトはフルーツ入りだ。

「意外と健康志向なのね」

思わずクスッと笑い、オレンジジュースをグラスに入れる。

智紀が用意してくれた朝ご飯は、ことのほか美味しくて、明日は私が作ろうと決めたのだった。

なぜならキッチンに、智紀が使った食器がなかったから。

彼は何も口にせずに出て行ったらしい。

やっぱり立場上、仕事は激務に違いないのだから、体には気をつけてもらわないといけない。
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