はじまりは政略結婚
「智紀……、もう行こうよ。ちゃんとついて行くから」

車内には、わざとじゃないかと思うくらいに唇が触れ合う音が響いていて、だんだんといたたまれなくなってきた。

軽く体を押し返すと、智紀はゆっくりと唇を離したのだった。

「そうだな。エンジンもかけっぱなしだし、そろそろ行くか」

小さく微笑む彼を見ていると、ちょっと悔しくなってくる。

私はキスで息も切れて鼓動が速くなっているというのに、智紀はいたって余裕だ。

そして、今度こそサイドブレーキに手をかけて、車を走らせたのだった。

「智紀の車って、柑橘系のいい匂いがするね」

唇に感触が残る中、意識していることを悟られたくなくて、違う話を振ってみる。

すると、軽やかにハンドルさばきをする智紀が、チラッと視線だけを向けた。

「芳香剤置いてるからだよ。祐也の車は? オレは乗ったことないけど、あいつのこそいい匂いがしそうだけどな」
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