はじまりは政略結婚
「智……紀ってば。本当にどこでも、見境ないんだから……」

熱いキスを数回交わした後、ゆっくりと唇を離した私は、恨めしく彼を見上げた。

「由香が可愛いことを言うからだろ? 朝ご飯なら、毎日作ってやるよ」

どうやら朝ご飯に触れたことが、智紀のツボだったらしい。

何が人の心に響くのか、分からないものだ。

「……ありがとう。だけど智紀は忙しいんだし、私も協力するから」

おずおず言ってしまったのは、とにかく照れ臭いから。

こんな些細なことにも喜んでくれる彼が意外過ぎて、戸惑ってしまう。

すると、口角を上げて微笑んだ智紀が、ギュッと私を抱きしめたのだった。

「そういう風に言ってくれるってことは、ずっとオレと一緒にいようと思ってくれてるんだろ? 」

「え? そ、それは……」

言われてみれば、そんな風に受け取られても仕方がない言い方をしたけれど、正直自分の気持ちが分からない。

何も答えられずにいると、智紀は体を離した。

「来客を忘れるところだったよ。じゃあ由香、また後でな」
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