イチゴアメ
ライブハウスが開場してからカフェを出て、サトルくんと二人、ライブハウスへと向かった。
入場を待つ女の子たちの並ぶ列を横目に、サトルくんの行く先へとついてゆく。
向かった先は、「関係者受付」と表示された入り口。
サトルくんに連れられてそこを通ってライブハウスの中に入った。
「俺は上に行くから、サッちゃんはそこから中入りな。どっかにマミたち居るはずだから。」
サトルくんは、黒い扉を私に示してみせてから、2階へ上がる階段へと足を進める。
彼の示した扉を開けてみると、ライブハウスの一階客席へと繋がっていた。
まだ人もまばらな客席。
前の方に人が集まっている。
客席を見回してみると、背が高くて派手な髪型のミオさんをすぐに見つけられた。
ミオさんに駆け寄ると、彼女も私にすぐに気づいてくれた様子でこちらへと手招きする。
「こんにちは!」
ミオさんへと挨拶をしながら近づく私の手首をミオさんが掴んでぐいっと引き、「ちょっとここに居て!」
そう言い残したミオさんはどこかへと小走りでかけてゆく。
とりあえずミオさんに言われるがまま、そこに立ち尽くした私。
目の前には、ライブハウスを区切るようにステージと平行に左右に伸びる黒いバー。
柵ってやつだ。
柵の数メートル向こうにはステージ。
楽器や機材が準備されて置かれている。
目の前にはマイクスタンド。
ステージの中央にある、ハルカさんのマイクスタンドが、私の真ん前にあった。
ライブハウスの中を見渡してみる。
入り口からステージの方へと走ってゆく女の子たち。
左を見ると、ミレイちゃんが見えた。ミレイちゃんも背が高いから見つけやすい。
右側へ振り向くと、いた。ミオさん。
ミオさんとお話している様子のマミさんも見えた。マミさんの隣にはサラさんも!
やっぱりみんな来ているのかな。
なんて辺りを伺っていると、ミオさんが戻ってきて、言った。
「今日、上手混んでるからサッちゃんは私の隣でいいよね?」
ミオさんの言ってる意味がよく分からない。
首をかしげてミオさんを見返す。
すると、ミオさんはぽんっと黒い柵を軽く叩いた。
「今日はサッちゃん、ここでライブ見てね。」
言い直してくれたミオさんに頷き、ミオさんの言う通りに私は柵の前に立った。
そこからユキの立ち位置である右側を見ると、マミさんが居る。
ちょうどマミさんがこちらを見ていて、目が合った気がすると、マミさんは大きく手を振り出した。
華奢で細く長い腕がブンブンと半円を描くように勢いよく振られる。
そんなマミさんを真似て、骨太で細くは
ない自分の腕をマミさんに向かって振りかえした。






しばらくして客席の明かりが暗くなる。
女の子たちの歓声が上がり、メンバーの名前を呼ぶ声なんかも聞こえてきて。
私も負けじとユキの名を叫んだ。
音楽が流れ始めるとスモークが発射されたステージが明るくなって、ブルームーンが登場する。
真ん前にスタンバイしたハルカさんは、さっき会ったひととは別人のよう。
顔を隠していた髪はセットされ、キレイにお化粧も施されている。
Tシャツ姿だったラフな印象とは全く違うステージ衣装に身を包んだ姿は、小柄ながらも迫力がある。
意地悪い笑みも、冗談も浮かんでこないその表情は、凛としていた。
ブルームーンのライブで、ユキ以外のひとをちゃんと見たのは初めてだ。
音楽がやみ、一瞬の静寂。
女の子たちの声も止んで、張り詰めた空気の中。
次に響いたのはギターの音。
私は慌てて視線をハルカさんからもっと右側へ移す。
ユキのギターの音だけから始まる曲から、その日のライブは幕をあけた。
< 13 / 13 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop