恋するマジックアワー

「……え、ここ?」


マンション、と聞いていたから驚いた。
そこはどう見ても築何十年と経っているような古びた建物だった。

アーチをくぐって敷地の中に足を踏み入れる。

塀の中は、花壇があってそこには向日葵や朝顔、色とりどりのカラフルな夏の花達が所狭しと咲き乱れていた。

それを横目で見ながら、玄関ホールへ進む。

ホールと言っても共同スペースってくらいで、レトロな雰囲気の郵便受けとこの建物に見合ったソファがまるで空気のようにそこに存在している。


外は太陽の日差しがジリジリと照りつける、真夏の午後。
それでも、一歩そこへ入るとそれが嘘のようにヒンヤリとしていた。




えっと、部屋は……。

真帆さんから預かっていた鍵をバッグから取り出した。

なんとも言えないビーズのストラップが一緒にぶら下がったそれを、目の前にぶら下げる。

ナンバープレートも一緒についていて、そこには【305】と書かれているのがかすかに確認できた。


手の中にそれを押し込むと、薄暗い階段を上る。
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