恋するマジックアワー
――【305】号室。
ネームプレートなんかないその部屋の前で、数分。
鍵を握りしめたまま数分。
「よし」
スウッと息を吸い込んで、ガチャリと鍵を開けて扉を開けた。
瞬間香る、知らない家の香り。
甘い香りがする。なんだろう、お香?
狭くて薄暗い玄関先の向こうにはモザイクガラスのドア。
恐る恐るドアノブを掴むと、そーっと中を覗き込んだ。
「こんにちは~……」
コソコソと入って、両手でドアを閉めた。
入ってすぐに目に入ったのは、対面式のキッチン。
それとリビングスペース。
広い部屋には不釣り合いなほど小さなテレビ。
そのすべては必要なもの以外おいてないって感じ。
女の人の部屋にしては、物足りなさも感じた。
まあ……ここはきっと共同だから、シンプルにしてるんだよね。
そのキッチンとリビングを挟んで両サイドに扉がふたつ。
クリーム色の壁紙に、白に近い青と、スモークピンクが目に入った。
かわいい……。
どっちだろう、わたしの部屋……。