恋するマジックアワー
なに?
なに言われるの?
たまらず目をギュッと閉じて、身構えたわたしにため息まじりの声が降ってきた。
「やっぱり。熱あるでしょ」
「……」
……へ?
ね、熱?
両頬を挟んでいたその手が、スッと首筋に触れる。
ひゃあああ!
体に電気が走ったみたいに、ビクリと飛び跳ねる。
でも、そんなわたしの事なんかお構いなしで、洸さんは確かめるように遠慮なくわたしの肌に手を這わせた。
「昨日ちゃんと体拭かなかっただろ?」
「う……」
そうかも。
濡れた浴衣着たまましばらくいたからな。
シャワーしか浴びてないし、体冷えちゃってたかも。
「38度2分。しっかり風邪ひいたな」
「ズズ……」
どうりで寒いし、頭痛いわけだぁ
「ったく。しゃーねぇな。だから言わんこっちゃない」
「……すみません」
情けない。
昨日、あんな姿を恥ずかしげもなくさらしておいて、さらに熱だしてしまうなんて……。
それからわたしは洸さんに渡された風邪薬を飲むと、半ば強引にベッドに寝かされてしまった。
はあ……。
熱があったから心臓がドキドキ速くなってたのか。
……てゆか、あんなふうに密着されたら心臓に悪いっつの。
洸さんの頭の中どうなってんの?
あー、頭痛い。
考えるのやめた。
お父さんだと思おう。
うん。
モゾモゾと布団に潜り込みながら、カーテンの向こう側の青空を眺めた。
小さな窓から見えるのは、すっかり秋めいた水色の空。
真っ白な雲が、やたらのんびりと流れていて。
色づき始めたカエデの葉が、ゆらゆらと揺れている。
なんだか夢の中にでもいるみたい。