恋するマジックアワー(仮)

鮮明に蘇る、強くてあたたかな腕の感触。
パパとは別の、違う男の人の匂い。

なんだかものすごく恥ずかしい姿を見せてしまった気がする。


……てゆか、目の前でわんわん泣かれたら、誰だって困るに決まってるよね。

家賃を折半するだけの同居人で、学校の先生。
友達でもなんでもない。
あたしは『沙原洸』さんのことを何も知らないし、彼だってそうだろう。

でも……。
洸さんは、あたしを優しく抱きしめて
泣き止むまで、ただ黙って傍にいてくれた。



なんでもない存在の人だったはずが……。
急にいくつもの壁を飛び越えてしまったような、そんな感覚さえしてる。



「…………」



泣くだけ泣いたら、すっきりしたかも。
そのせいで頭がボーっとするけど、それでも……。

両手でぎゅっと肩を抱く。
そうすると、そっと抱きよせられた熱が鮮明に蘇ってくるみたいだ。
まるでちいさな子供をあやしてるような……。

洸さんは、ああすることに慣れてるんだろうな……。





「んなトコでなにしてんだよ」

「ひゃ!」


いつの間にか顔を上げて、不審そうにあたしを眺めてる洸さん。
ビックリして、変な声出しちゃった。


うう、頭痛い……。



「……おはようございます?」

「もう昼だけどな」

「えっ」


呆れたように眉尻を下げた洸さんの言葉に、慌てて時計を見ると確かに針は11時を回っていた。

日曜日でも仕事をしていた父にご飯を作ったり、家事をしていたからこんな時間に起きたのは久しぶりだった。



ん?

洸さんの視線がまだあたしを捕えている事に気付き、心臓がドキリと反応する。


え……えっと……。

おずおずと部屋から抜け出すとそのままキッチンに向かう。
冷蔵庫からお水を出すとそれをグラスに注いだ。


と、その時だった。


「海ちゃん?」


え?


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