恋するマジックアワー
「俺は行かないよ」
え?
「行かないって……なんでよ。わたし留美子の事傷つけちゃったのかも。 牧野、お願い。連れ戻して」
「……」
朝練を済ませ、大きなスポーツバッグを下げた牧野。
汗をかいてシャンプーをしたのか、シトラス系の香りが風に乗って鼻をかすめた。
「牧野にしかできないでしょ?」
「それなら立花が行けよ。俺には無理だ」
え、なんで?
カチンと来て、思わず感情があらぶってしまった。
「無理って……無理ってなに?
彼氏でしょ? 大事な女の子でしょ?」
HRの時間が迫ってる。
登校してくる生徒たちが増えて、好奇に満ちた視線を全身に感じる。
それでもわたしは、キュッと唇を結び、牧野を睨んだ。
ヒドイ。
そんなの、酷過ぎる。
小刻みに震えるわたしに気付いて、牧野は小さくため息をついた。
「……なんか色々誤解してるな」
「え?」
まっすぐにわたしと向き合った牧野。
牧野は、薄く息を吸い込んだ。
「俺、るみとは付き合ってないよ」
は?
「……だ、だってあのお祭りの日に、好きだって」
「? ああ、あれか。あれは違う」
「違う?」
じゃあ、あたしが聞いたのはふたりの「告白シーン」じゃなかったの?
「留美子は俺に言ったんじゃない」
「……」
え?