はやく俺を、好きになれ。
しかし問題は真優だった。



「…は、陽?」

「何でもねえ」

「…でも今」

「何でもねえ」

「…は、裸って」

「何でもねえ」



言われる前に否定する。言ってねえ。俺は何も言ってねえ。


昔、風呂に入って逆上せた真優を抱き抱えた時にタオルが外れて裸体を見てしまったことなんて思い出してねえ。


俺は何も言ってねえし思い出してねえ。



「……そ、そっか」



否定する俺に真優は戸惑いながら呟いた。ああ。それでいい。俺は何も言ってねえ。


真優に変態だとインプットされた暁には生きていける自信がねえ。何度目かになる家出をする羽目になるだろう。


昔はよく二駅分の家出をしては親父に殴られた。その理由がいつも真優絡みで頭を悩ませたっけな。


よく真優の親と俺の親で座談会が開かれていたのも知っている。もちろん議題は俺と真優の事だ。


自由気儘に育った俺達とは裏腹に親の悩みは尽きなかった。
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