だから、恋なんて。
なんて、誰に言うでもない理由を考えながら、家に帰ると。
そこに千鶴の姿も手料理もなくて。
今さらながら携帯を見てみると『急な会食入りました』とメッセージが光る。
ふぅっと息をついて、冷蔵庫から缶ビールを取り出してとりあえずひと口。
「…くぅ~、うまっ」
若いころは見よう見真似で味わっていたビールも、いつ頃からか本当に美味しく感じられて。
ビアガーデンでテンションが上がるおじさん達の気持ちがよくわかる。
千鶴が家出してくる前は日常だった一人の晩酌も、わずか一週間ほどの間になじまないものになっている。
今日あった小さな出来事を話す相手がいるってことの有難さとか、幸せを。
誰かと向かい合って家で食事をすることを。
同じテレビをみて、笑いあったり文句を言いあったりできることを。
この先、八割くらいの確率で、一人で暮らしていかなければいけないって思っていたのに。
誰かと一緒に暮らすことを味わってしまったら、途端に一人でいられないような気がしてくる。