だから、恋なんて。

やっぱり、この患者さんも頼まれてたんだ。

青見先生専門の心臓内科の既往もある患者さんだから、もしかしたらって思ってた。

「まだ麻酔から醒めてないようですね。もし覚醒してから胸部症状を訴えるようでしたら…」

パソコン画面から視線を逸らさずにそう言うと、ふと手を止めて私のほうを向く。

何故か可笑しそうに口端を上げる先生を、初めて見た。

「これは、結城先生が?」

言いながら、示すように視線はパソコン画面に戻る。

画面上にはドクターがあらかじめ出しておく指示簿が開かれていて。

そこにはさっきチャラ医者が追加していった指示が表示されている。

「そうです…けど」

何も問題のないはずの指示だけど、青見先生の馬鹿にしたような笑いの意味がわからない。

戸惑いながら答えると、そうですかとどうでもよさそうに呟く。

一瞬にして興味を失ったような先生は、検査データを確認したり、心電図をチェックしたりして、お願いしますと言いながらあっさりICUを出ていった。

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