だから、恋なんて。
なんで私が今、ここで、いちご牛乳の美味しさをこいつと共有しないといけないのか。
「…結構です」
ロッカーから誰かが出てくる声がして、なんとなく小声で医者の横を通り過ぎようとする。
ICU内でふざけたことを言っているだけならまだしも、こんなところで全然関係のない部署の人に見られたら、なんだか良くない気がした。
「あ、待ってよ。じゃあ、着替えたら裏門で待ってて」
すでに後ろにいるその男からあり得ない声。
よく考えれば他人のふりして無視したらよかったんだろうけど、その時の私はきっととてつもない顔をしていたハズ。
絶対『マズイ!』って顔に描いてたと思う。
咄嗟に取った行動は、完全にパニクってたとしか思えない。
一瞬だけ目が合ったような二人組から顔を背けると、そのままその諸悪の根源である医者の腕を取ってズンズンと歩き出す。
「えっ、美咲さん?」なんて嬉しそうな医者の言葉は聞こえないふりをして、患者さんは使わない重い扉を開けて、階段の踊り場まで無言を貫く。