だから、恋なんて。

アドレスから千鶴の名前を呼び出して、電話をかけようか迷っていると。

いきなり『着信中 間瀬千鶴』の文字が画面に表示されて、ビックリして携帯を落としそうになる。

そうだ、マナーモードのままだったから着信音も振動もなかったんだ。

「もしもし。どうしたの?」

「あ~、ごめん。メール見たかと思ったんだけど、ほんと急だったし、ちゃんと話したかったから」

「うん?いいよ、急なのは別に。荷物も気にしないで」

「うん…ありがと」

何故か……思案するような沈黙が流れる。
ちゃんと話したいというわりに、とても言いにくそうに逡巡してるのが電話越しでも伝わってくる。

「千鶴、大丈夫?」

「ん…ありがと。実はさ、直人が今日会社で倒れちゃったみたいでね」

「え、なんで?」

「いや、それはお恥ずかしいことに、いわゆる過労って話なんだけどさ」

「過労…」

「うん…まあ、特に仕事が忙しくなったってわけじゃなくて。ちゃんとご飯を食べてなくて、おまけに寝不足だったみたいで、さ」
< 153 / 365 >

この作品をシェア

pagetop