だから、恋なんて。

ジッとその手を見つめながら、やっぱりその手は取らずに立ち上がろうとすると。

それよりも一瞬早く、ブランコのチェーンを握る手をぐっと引かれ。

「行こっか」

そう言って微笑む医者のわずかに香るオトコっぽい匂いがわかるくらいに近づく距離。

職場でも処置の最中にはこのくらい近づくことはあるけれど。

同じような距離でも、なぜか意識して早まる心臓の音がうっとおしい。

この人はいくらチャラくても医者で。

つかまれた手首から、早くなる鼓動を知られてしまうはずはだから。

「行くってどこに」

精いっぱい不機嫌を表しながら、鞄を持ち替えるようにしてその手を外す。

「う~ん、どこにする?ここら辺まだよく知らないから、美咲さん決めてよ」

「ここで充分なんだけど」

「そんなわけにいかないよ。これだけ待たせたし、そのお詫びに何か奢らせてよ」

「待たせたって…」
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