だから、恋なんて。

そんなこと言われても、医者といるところなんかそこらへんのお店で誰かに見られでもしたら………恐ろしい。

病院の職員だけじゃなくて、患者さんとかその家族とか。

特に医者は、本人が自覚している以上に顔を知られていることが多い。

「俺はめちゃくちゃ腹減ってる」

どこか美味しいお店を紹介してもらえるといった期待を込めた目で、勝手な希望を伝えてくる。

「勝手にどこかで食べてよ…私の話はここで済むから」

「え~」

え~ってなによ、え~って。いい大人のオトコが。

子供が駄々をこねるように、口を尖らせてあからさまに拗ねる気持ち悪い医者に、淡々と自分の話を伝える。

「てっきり私の噂を知ってるかと思って口走っちゃったけど。もうずいぶん前のことだから、今さら職場でこの話をされるのは困るの」

どうせ辺りは真っ暗で、私の顔なんかどこが目でどこが口だかわからないだろうけど。

やっぱり気まずくて、視線を逸らして口を開く。

「私が簡単に落とせて、すぐヤレるとか、そんな…」
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