だから、恋なんて。

ため息さえもつくことを躊躇うこの状況に、カップルからは「シュラバじゃね」「ヤバくない?」なんてヒソヒソ話も聞こえてくる。

絶対『修羅場』なんて漢字で書けそうになさそうだし。

「あれ、オンナのほうが年上じゃね?」

「え~うちらと同じじゃん」

その見る目は、なかなかに確かなもの。

ますますやりにくくなった空気の中。

「美咲さん、行くよ」
「え、どこ」

一度は離した手首をぐいっと引っ張られ、根が生えたように固まってた足が医者の後を追うように進みだす。

「ちょっと、どこ行くのよ」

「とりあえず、どっか」

「どっかって……」

こんな手を引かれてるところなんて誰かに見られたら…。
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