だから、恋なんて。
「大丈夫…かな。あれは……私が悪いから」
乾いた笑いを言葉尻に響かせる千鶴は、やっぱりいつもの千鶴とは違う。
「千鶴……」
視線を移すと、同じようにパンプスに視線を落とす千鶴は、なんだか今にも泣きだしそうにみえた。
「直人とは、ちゃんと話すよ」
「うん…」
仲居さんの声に見送られて、店先まで出たところで雫が後ろから追いつく。
「千鶴さん、美咲さん、ご馳走さまでした。……高かったです?」
私たちの間に入り込み、両腕をそれぞれの腕に絡ませて上目づかいで交互に顔色をうかがう雫。
「……ふふっ、雫、あんた完全に酔ってるね」
「うん、確かに」
「えぇ~、酔ってませんよ」
まだ腕にぶら下がったままの雫は、いつもはいくら飲んでもかわらない頬がほんのり桜色に染まっていて、すごく可愛い。