だから、恋なんて。
「お、おはようございます」
なんとか返答はするけれど、隣に立つ男の顔も見られない。
「どうですか?尿量は保ててます?」
「はい、なんとかスケールはクリアできてますね」
幸か不幸か、今日の担当患者さんは青見先生の患者さんで。
電子カルテでチェックすればこんなこと看護師に聞かなくてもいいのだろうけど、でもいくら電子機器が発達していても、言葉のコミュニケーションもやっぱり必要。
一緒のカルテ画面をのぞき込むという状況は、どうしてもその距離感が近づいてしまう。
青見先生のわずかに香るフレグランスに、今朝の夢が脳裏にちらつく。
いつもは気にしない息遣いも、どうしてか潜めるようにしか息ができなくて、その圧迫感にたまらず席を立つ。
どうせこの後患者さんを直接診察するのだから、患者さんの心の準備のため…と言い訳をしながら、目の前のベッドに寝ている患者さんの横に立つ。
「主治医の先生がみえましたよ。何か気になっていることはありますか?」
「あぁ、そうですか。今のところは…」