だから、恋なんて。
この後の診察がしやすいように病衣を整えていると、ベッドの反対側に青見先生が近づいてくるのがわかる。
「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」
なんていいながら聴診器を取り出すので、診察しやすいように介助する。
丁寧で決して患者さんの言うことを遮らない対応は、見ていて安心できる。
一通りの診察を終えても世間話が続いている二人を残し、またカルテの前に戻っていると、話を切り上げた青見先生はまたこっちに歩いてくる。
「あとの指示は出しときましたから」
「わかりました」
それだけのことなのに、なんだか落ち着かないそわそわ感を与える男は、他の
ベッドを見回るように歩いていく。
「なんだか素っ気ないですね」
「…っと、ビックリするじゃない」
知らないうちに青見先生の背中を見送っていた私の背後から榊の低い声がする。
この子、若く見える顔してるんだけど、低いハスキーボイスのせいでやけに落ち着いて見えるのよね。