だから、恋なんて。
「ほんと、自分勝手でしょ、私」
そう言って唇を噛む千鶴は、直人さんの痛みも充分にわかっているんだと思う。
自分のことを自分勝手だという千鶴は、これを打ち明けると直人さんが同じように苦しむことをわかっているから。
だから、あの時は言えずに家出してきたんだと思う。
「直人さんに、今の気持ちを全部伝えたらいいんだよ」
「え……」
「私に言ったこと全部、直人さんに言ったらいい」
「こんなこと言って……軽蔑しないかな」
不安そうに視線をさまよわす千鶴に「大丈夫」と頷きながら。
あの日、頬を染めながら千鶴といると幸せだと言った直人さんを思い浮かべていた。