だから、恋なんて。

お金を受け取りながら少しだけアイツに近づいた榊が、耳元で何かを話すとアイツがチラッとこっちに視線を向けたから、慌てて自然を装いながら目の前の串に視線を落とす。

バレたかな…私が見てたこと。

いや、バレたってどうってことないけど。アイツを見てたってことを知られたくなくて慌てて逸らしたってことを知られたくなかったっていうか。

「美咲さん、ごめんね?遅くなっちゃって」

ビールを片手に当たり前のように今まで榊がいた場所にチャラ医者が座る。

「何食べてるの?それ、一口ちょうだいよ。ほんと、腹減ってるし」

「ちょっ、新しいの食べなよ」

「だって、美咲さんのが美味しそう」

食べかけの串を私の手ごとつかんで、パクッと口に入れてしまう。

なんでコイツはこうやってすぐに距離を詰めてくるかな。

必死で冷静を装うとしても、顔が上気してくるのがわかる。

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