だから、恋なんて。

口紅がはげて無残な口元をどうにかしたいと思うけれど、わざわざ直してきたと思われるのも癪で。

戻ってみたら他の席に移動していてほしいような、あのままあの席でいて欲しいような、あの席で他の子に囲まれていても気に入らない……ような。

いずれにせよ、私がアイツに振り回されてるってことが大問題で。

なにをするわけでもなく、手を洗っただけでトイレを出ても、なかなか足が進まない。

何とも言えない気まずさを抱えたままいよいよこの襖の向こうにはアイツがいる…というとこまで歩いて来て、同じ座敷の数枚先の襖が勢いよく開けられる。

「おっ、乙部じゃないか~」

「…師長、飲み過ぎじゃないですか」

明らかに焦点の合ってないようなゆでだこ師長が顔をだす。

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