だから、恋なんて。

トイレにでも行くのかと思っていると、これまた紅葉のように真っ赤な手をチョイチョイと手招きする。

「……?っわ」

「飲もうぜ~」

開けられた襖の前まで行くと師長にぐいっと肩を引き寄せられて、無理矢理隣の席に座らされてしまう。

ちょっと!いくら師長でもこれって立派なセクハラじゃない?

っていうか、まだ靴も脱がせてもらってないのに目の前に合ったビールジョッキを持たされて何度目なのかわからない乾杯に付き合わされる。

こんな状態だったらもう私がほんとに飲んでいようがなかろうがどうでもいいだろうと、ジョッキには口を付けただけで曖昧な笑顔を浮かべてみる。

隣でジョッキをあおる師長は、院内の電子カルテシステムがどうとかこうとか訳の分からない話をしたかと思うと、「あっ」と思い出したように「トイレ、トイレ」と呟きながら私を置いてさっさと行ってしまう。

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