だから、恋なんて。

「あはは、一応頭も使うよ?そうでもしないと相手にされないし。押すばかりが正攻法とは言えないし」

悪びれずにこうもしれっと白状されると、今さら腹も立ってこない。

「……どっちなの?」

知ってたの、知らなかったのという言葉の続きは、不意に握られた左手の所為で言えなかった。

突然手を繋がれた理由を、廊下の向こうから聞こえてくる話し声で悟る。

慌てて立ち上がろうとすると、思いの外強い力でぎゅっと握られる。

何やってんのよ、誰かに見られたら困るのはお互い様なのに。

抗議の想いを込めて睨むと、グイッと引かれて耳元に寄せられるアイツの唇。

「この間のところで待ってる」

普段なんとも思わなかったのに、よりにもよって今、腰が抜けそうなくらい艶っぽい声だと思った。

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