だから、恋なんて。

夜勤明けの看護師の姿を認めたのは、アイツが白衣の裾を翻して椅子から立ち上がると同時で。

きっと赤くなってしまっているであろう顔を、アイツに見られなくってよかったと思う。

くたびれた夜勤明けの姿なのに、頬を染めてジューっといちごミルクを飲む四十路の女。

……かなりシュールで、想像するのも怖い。

案の定、ヤバいものでも見ちゃったかのように怖々と会釈だけで通り過ぎられる。

甘ったるいけど、その糖分でいくらか働くようになった頭は、アイツがわざわざ耳元で言い残してった言葉を鮮明に蘇らせて。


とりあえず、着替えはしてから向かおうと紙パックを捨てて、更衣室に急ぐ。

私服でいたら、パッとみられただけじゃあ職員か患者か、はたまた患者の家族か見分けがつかない。

手早く服を着替えて、纏めてた髪も下ろして体裁を整える。

メイクは……もうどうせ見られてるんだから、無駄な抵抗はせずに保湿のグロスだけ塗って。

時計を確認すると、もう十分は過ぎていて、小走りであの階段まで向かった。

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