だから、恋なんて。
「ごめん、待った…よね」
重い扉を開けると、階段の手すりに肘をついて窓の外を眺めてる医者がいた。
うっ…、コイツって喋らないで真面目な顔してたら、かなりイイ男の部類?
それとも、もう私の目にはそういうふうにしかコイツが映らないくらい惚れてしまってるのか?
うっかり赤くなりそうな顔を見られたくなくて、チャラ医者がこちらに向き直る前に隣に並んで、窓の外に視線をやる。
ちょうど病院の裏側に面するこの場所は、出入りする業者の車くらいしか見ることができないけれど、それはあっちからも誰かに見られることは少ないわけで。
前にコイツが言った通り、格好の密会場所なのかもしれないなとか思う。
「う~ん、可愛いね」
「…は?」
間延びした声で言われた言葉に思わず隣を見ると、手すりに肘をついたまま、その手に顔を乗せた医者が、上から下まで品定めでもするように視線を動かしている。