だから、恋なんて。

「ちょっと、ここ職場っ!」

またも社会人の常識としてあり得ない状況に、両手でグイッと医者の胸を押す。

「ははっ、気付いちゃった?」

言いながらあっさり離れた温もりが、名残惜しいなんて絶対顔に出してやらない。

「美咲さん、夜勤明けって隙だらけ」

「うっ…」

隙というか、ただ単に頭が働かないだけだと思うけど。

「そんな美咲さんをほおっておけないからね。夜勤明けは、まっすぐ家に帰って寝ること。オッケー?」

「ハイ……オッケーです」

知ってか知らずか口ぐせを持ち出されて、またまた恥ずかしくなって俯いた私の頭をポンポンと軽く撫でるように叩いてから、「じゃ、お疲れ様」と白衣を翻す医者の声と重いドアがバタンと閉まる音が聞こえた。


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