だから、恋なんて。
こんな雫はまえに一度だけ見たことがある。
…雫のいる検査部の先輩に二人目の子供が産まれたときだった。
「…雫、それって…」
そんな雫の姿に驚いたように手を止める千鶴も、雫がこんな風になっている理由に思い至ってるはずで。
さっきまでガヤガヤとしていた周りの喧騒も、私たち三人の周りだけ切り取られたように聞こえない。
「どうやって……っ、いつか、忘れられるって、千鶴さんも美咲さんも言ってくれましたよね」
もう何年になるかわからない。大学のときからの、その先輩に雫はずっと想いを寄せている。
その先輩は大学時代からの彼女と卒業後数年して結婚、子供ももうけている。
そしてもちろん、雫とは不倫関係なんてものではなく、よく面倒をみてくれる近所のお兄さん的存在で。
それが不幸か、雫がその先輩への想いを消せない理由だと思ってるけれど。
いつか忘れられる、あと何年かしたらきっと忘れられる…そう思いながら同じ職場で過ごすうちに、他の病院での再就職が微妙な年齢になっていく。