だから、恋なんて。
新しいお酒と料理が運ばれてきても完全に蚊帳の外にいると、さっきの千鶴の言葉がふと頭に浮かぶ。
そう、まだ…なんだよね。
あれからもう十年近く過ぎちゃったけど、それでもそんな話が蒸し返されなくなったのはここ二、三年だし。
忘れたいのは山々だけど、そうも簡単に忘れさせてくれないのは人間の記憶のやっかいなところで。
新しい医者が替わってくるたびに、顔を伏せてしまうのはもう癖になっている気がする。
そんなことを思うと今朝の軽そうなドクターの自己紹介を思い出して、また少し嫌な気持ちになる。
三十そこそこだった頃、歓迎会とか送別会だけじゃなくて、お花見だったりバーベキューなんかが企画されれば、皆勤賞といってもいいくらい参加していた。
家庭がある看護師はどうせ行けないからと夜勤を交替してくれるし、ほとんどタダで飲み食いできたのだから、同年代の独身看護師はみんなが皆勤賞だったと思う。