だから、恋なんて。

高橋さんは多分まだ二十代で、たしか私とはちょうど一回り違ったはず。

一回りだよ、ひとまわり。

働き出したころは、干支がひとまわりも違う人なんかは看護師としての大先輩で、なにか怒られないかと怖くて、いつもビクビクして近寄りがたい存在だった。

それが今では時代というのか、イマドキっていうのか……私なんかちっとも怖がられていない気がする。


休憩に行く前に、受け持ちの患者さんの点滴残量をチェックしてまわる。

切れそうなシリンジは準備して置いておくと、残量が少なくなったアラームで高橋さんが交換してくれる…はず。

真夜中のICUなのでかなり小声で話している二人の声ははっきりと聞き取れない。

それでも、高橋さんの声のトーンは明らかに高くて、圧倒的に彼女のほうが一方的に話しているのだとわかる。

やっと自分の心拍数も平常に戻り、点滴チェックも終わったところで、休憩室へと足を向ける。

< 75 / 365 >

この作品をシェア

pagetop