だから、恋なんて。
二人のいるデスクから少し離れたところを足早に通り過ぎようとした瞬間、高橋さんの甘えるような声が聞こえる。
「え~、先生って彼女いるんですか?」
聞き間違いかと思うような内容に、思わず足を止めてそちらを見てしまう。
だって、真夜中のICU、しかも職場で仕事中だよ?
まるで居酒屋のカウンターにでも並んでいる雰囲気の内容に、注意するべきか少し迷う。
薄暗いICUで、どうしようかとそっちを見つめていると、先生に体ごと向けている高橋さんの背中で青見先生の顔はよく見えない。
ふと、恥ずかしさのためか、高橋さんが俯いて、彼女よりは座高の高い先生の顔が視界に入る。
え……、ちょっと。
青見先生の瞳はまっすぐに私を捕えていて。
まるで高橋さんのうしろに私がいて、見ているのがわかっていたように。