だから、恋なんて。

「そうなんだ?それにしても品数多いね」

「なんとなくいつも通りに作っただけよ」

多分、千鶴の生活の中には、もう直人さんの存在が当たり前で。

そういえば建築会社で働く直人さんは、朝からしっかりご飯を食べて仕事に行く人なんだろう。

千鶴がいない朝を、直人さんがどうやって迎えているのか、他人事ながら心配になる。

「じゃ、行ってくるね」

立ち上がる千鶴に慌ててお礼を言って見送ろうとすると、「いいから食べて」と言いながら玄関に消える。

パタンとドアが閉まる音を聞きながら、合鍵を渡すのを忘れたと思ったけれど。

「ま、どこも行くことないか」

特に用もない今日は、家で千鶴の帰りを待つことにした。

豪華な朝食を残さず食べて、しばらくの間動けずにソファに寝ころびながらワイドショーなんかを何となく見ながら、千鶴の家出の理由を考えてみる。

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