だから、恋なんて。
次の日も仕事の千鶴に合わせて、深酒せずに就寝した翌朝。
目が覚めると、お味噌汁のいい匂いが鼻をかすめる。その匂いに誘われて、昨日よりは幾分軽くなった体をえいっと起こして寝室をでる。
「うわっ、すごい」
テーブルの上には炊き立てご飯に湯気の立つお味噌汁。魚の干物に納豆、切り干し大根の煮物にお漬物まである。
もうすでに身支度を整えている千鶴は、キッチンでお茶を淹れているところで。
「あ~よかった。もう起きるかなと思ってたのよ」
と、いつもの笑顔を浮かべてお茶を持ってきてくれる。
たまに実家に帰った時以外、ここ何十年も味わったことのない家庭的な朝食が自分の家のテーブルにのっていることに、感激しすぎてお礼を忘れて箸を持つ。
「いつもこんな豪華な朝食食べてるの?」
「そんな大げさな…」
「だって、こんなに食べたらお腹いっぱいで仕事行くの嫌になりそう」
「私もそう思うけど、男の人は朝からちゃんと食べたい人多いよ?」
笑いながら言う千鶴は、テーブルを挟んだ向かい側で優雅にお茶を飲んでいる。