だから、恋なんて。
「はい」
受話器を上げて返事をすると、それは雫ではなかったけれど、もっと重要な人かもしれなくて。
「あの、間瀬です。妻が…千鶴がお世話になってます」
「あ、はい」
「すみません、年賀状に住所書いてたんで……」
昨日の今日で現れた直人さんに、ちょっと焦りながらも開錠ボタンを押す。
「取りあえず、あがってきてください」
まさか追い返すわけにもいかないし、さすがにこんな格好の私が外に出て行って話をするわけにもいかない。
それでも、この寝間着は如何なもんかと思ったので、急いで寝室に行って近くのコンビニには行けそうなシャツとジーンズに着替える。
ピンポンと部屋の前でチャイムが鳴り、一年ぶりくらいに会う直人さんの穏やかな顔を想像しながらドアを開ける。
「突然すみません、ご自宅まで押しかけてしまって…」
開けるなり、こちらは見ずに頭を下げたままの直人さん。
スーツ姿に通勤かばんを持っているところをみると、仕事中なのか。