だから、恋なんて。
「いえ、私は全然かまいませんから。どうぞ」
どうやら千鶴ではなく私に会いに来た様子で、どういう要件なのか不思議に思う。
結婚もしてない私が二人の間に入って仲裁するなんてことじゃないだろうし。
家出までする喧嘩は、他人が入ればもっと混乱するだろうと思う。
なんにせよ、玄関先で話せることでもないだろうし、ドアを開けたまま体を寄せて入ってもらうように視線を送る。
ゆっくり顔を上げて、一瞬躊躇したように視線を揺らした直人さんだったけれど、「お邪魔します」と靴を脱いで恐る恐るといった様子で入っていく。
その力ない背中を見ながら、やっぱりなんで喧嘩したのか考えもつかない。
ソファに座ってもらって、インスタントのコーヒーを持って向かい側に座る。
千鶴と向き合ったのとは反対だったけれど、今朝の千鶴を思い出す。
コーヒーの香りと沈黙が部屋に充満する。
気まずいとは思うけれど、何を話せばいいのかわからない。
チラッと目の前に座る直人さんを盗み見ると、それはお互いさまのようで。