ドライアイス
いたたまれなくなって、道着を着たまま稽古道場を飛び出すと、外はあいにくの雨だった。

傘もささずに雨にうたれていたら、涙は雨に紛れて消えた。

人しれず、声もあげずに泣いた。

「目障り」

リュウの声が頭の中でこだまする。

私がリュウの気に障るようなことをしたわけではないはずだ。

ただ、存在が目障りなのだと言われた気がした。


「ヒナ?」


背後から声をかけてきたのは由梨。

白のフリルがついた可愛い傘をさしている。


「どうしたの?そんな格好して」

道着姿を不審に思われたのか、服装に指摘が入った。

下校中の生徒は、全員制服姿だというのに、私だけが道着姿だから、注目の的になっている様子だった。


「今日は、もう部活が終わったの?」


「今日は早退、かな」


「えー、珍しい。ヒナは部活も授業も早退しないと思ってた!」


皆勤賞をとるくらいだから、部活も授業も早退しないと勘違いされるのは至極当然の話。

実際に由梨の言うとおり、未だかつて、部活や授業を早退したことなんてなかったのだ。


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