山神様にお願い


 彼はまだ、就活をしている。自分より遅く活動を始めた彼女である私が、先に就職先を決定してしまったときから、やたらと不機嫌になる度合いが増えたのだ。

 友人達も、就活が始まったらそういうことはよくあるよ、と言って散々慰めてくれた。

 男のプライドが耐えられないんでしょ、って。でも仕方ないよね、ひばりの方がラッキーだったし、タイミングもよかったってだけなんだから、と。

 彼も仕事が決まればまた、いつもの小泉君に戻るよ。そう言って。

 実際のところ、去年の冬頃、彼が志望していた大手の企業を全滅した辺りから、雲行きは怪しくなっていたのだけれど。

 それでも、私が決まったときは喜んでくれたし、それからすれ違いも多くなったけど、私のバイトが中々決まらないってとこで、「やっぱりそういうことってあるよな」って、彼の中では折り合いをつけていたんだろうと思う。

 就活は恋愛の邪魔だ、そう断言する女友達に囲まれて、私は曖昧に笑った。

 現実はそうなんだろうな、と思っていた。だけど、私達は違う、大丈夫なカップルだってあるはず、そう思いたかった。思いたかったけど―――――――最近の彼は全然あってくれなくなったのだ。電話だけ。・・・それも、私からかけるときだけ。

「仁史君は、どう?前にいってた製造は?」

 大きなため息。更に低くなったトーンで、ぼそっと。

『それもうまくない、か、な・・・』

 アウチ!私はつい、目を閉じる。地雷?地雷だった?だけど就活の行方を聞かないと、俺に興味なくなった?って前に言われてしまったし。うおおおー、何てことでしょうか!


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