山神様にお願い


 彼は小泉仁史という。経済学部が専攻で、明るくて活発、アウトドアがすきで、私を色んなところへ連れ出して色んな経験をさせてくれた。

 大柄で、クマのような印象のある男の子だ。クマはクマでもプーさんの感じだけど。

 とても行動的だけど、優しくて、一緒にいると落ち着いた。

 大学の文化祭が縁で出会って、告白されて付き合いだした。こんな明るい人が世の中にいるんだなあ!と私が感動したくらいに、彼はポジティブに色んなことを笑って吹き飛ばしてくれたのだ。

 声も大きくて、大らか。就活が始まるまでは、彼は度々一人暮らしで不安になる私を慰め、勇気づけてくれたのだった。

 け、ど――――――――――


『居酒屋?』

 2年前から付き合っている彼氏の小泉君は、電話の向こうで言った。

「そうだよー、居酒屋。これで何とか財政状況もマシになりそうだわ」

 明るく茶化すように言って、あはははと私は笑う。

 だけど予想通りに、彼は笑わなかった。

『・・・決まったんだ、へえー・・・。よかったな、おめでと』

 声が、暗い。

 私は自分の部屋でベッドに額をつけながら、電話の向こうに聞こえないようにため息をついた。

 決まった、この一言が彼を不機嫌にさせたのだろうと思う。


< 14 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop