山神様にお願い
彼は小泉仁史という。経済学部が専攻で、明るくて活発、アウトドアがすきで、私を色んなところへ連れ出して色んな経験をさせてくれた。
大柄で、クマのような印象のある男の子だ。クマはクマでもプーさんの感じだけど。
とても行動的だけど、優しくて、一緒にいると落ち着いた。
大学の文化祭が縁で出会って、告白されて付き合いだした。こんな明るい人が世の中にいるんだなあ!と私が感動したくらいに、彼はポジティブに色んなことを笑って吹き飛ばしてくれたのだ。
声も大きくて、大らか。就活が始まるまでは、彼は度々一人暮らしで不安になる私を慰め、勇気づけてくれたのだった。
け、ど――――――――――
『居酒屋?』
2年前から付き合っている彼氏の小泉君は、電話の向こうで言った。
「そうだよー、居酒屋。これで何とか財政状況もマシになりそうだわ」
明るく茶化すように言って、あはははと私は笑う。
だけど予想通りに、彼は笑わなかった。
『・・・決まったんだ、へえー・・・。よかったな、おめでと』
声が、暗い。
私は自分の部屋でベッドに額をつけながら、電話の向こうに聞こえないようにため息をついた。
決まった、この一言が彼を不機嫌にさせたのだろうと思う。