山神様にお願い

・図書館の筆談



 夕波店長が実家に戻ってしまったのが、11月の最後の方だ。そして、何やかんやと2週間以上が過ぎて行き、私は彼氏である店長の声すらもあの1回の電話のみで、12月になってしまった。

 ・・・ま、声が聞けないって言い方はフェアではない。それは判ってるんだけど。だって私からだって電話はしてないのだ。

 意地になってるわけではない(と、思いたい)。ただ、タイミングがつかめないのだ。

 だって大して話があるわけでもない。それに、彼からも電話もメールもないってことは、多分それほど忙しいのだろうと思うからだった。

 それにそれに、多分、またあの女性も一緒にいるんだろうし・・・。

 夜は月と土以外は毎日山神へ入っている。そして、龍さんの美味しいご飯を食べて、皆でビールを飲んで、結構楽しく騒いでいる。ふと、奥の壁、山神様を見ては店長の不在を確認してしまうけど、皆何故かそれを考えないようにしているかのように、突き抜けて明るく騒いでいるみたいだった。

 店長がいなくても大丈夫だもーん!みたいな、ノリ。

 多分、店長の婚約者らしき人が登場したり、本人からの電話が一向にないことが、皆の反感を買っているのだろうと思った。

 私が可哀想だって思ってるんだって。

 特に訂正もせずに、私もそのままで過ごしている。だって自分でも気持ちがよく判ってないし。店長から電話がこないのは事実だし。

 夜はそんな感じで騒がしく、酔っ払って帰ってベッドでバタンキューだから、最初の頃のように店長の影に抱かれたりもしなくなっていた。そして昼間は、ここ、大学の図書館に毎日通っている。

 大学にはパソコン教室があるから、図書館で調べてその後ノートに文字をかき、それをパソコン教室で打ち込んでいるのだ。そうやって論文を作っている。


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