山神様にお願い
荷物を片付けながら、彼が言い間違えに苦笑する。
「・・・教えてくれてありがとう。本当に嬉しかったよ」
それは本心だ。お陰で私の、目に見えなかった心の隅が、いきなり明るくなったのを感じたのだから。
小泉君はしばらく手を止めて、私は真面目な顔で見下ろしていた。そして呟くように言う。
「・・・本当は心配してたんだ。あんな・・・あんな酷い状態の時に、いい逃げみたいに別れてって言ってしまったから・・・俺、酷かったから」
「もう気にしないで。私、大丈夫だよ」
私が言った言葉に彼は頷いた。
「うん。そう見える。・・・というか、前より何か、綺麗になったみたいだ。大人っぽくなった。もしかして、彼氏がいる?」
「え」
不意打ちだった。まさか、そんなこと聞かれるとは思ってなくて。それで私は顔に熱を感じてしまった。
それを見て小泉君が声を抑えて笑う。
「ははは、変わってないのな、その反射的赤面。彼氏、いるならなおさら良かった。ひばり・・・鹿倉さんには笑っていて欲しいから」
きゅんと来た。それは、本当に優しい言葉だと思ったのだ。でもそこでありがとうって言えなかったのだ。
うっと詰まってしまって、言葉が出なかった。
パッと小泉君の顔を見上げる。彼は笑顔を消して小さな声で聞いた。
「・・・苦しい恋愛なのか?うまく行ってないの?」