山神様にお願い


 数メートル先の路上で道路の手すりにの側に立つ人影に気付いて、私は足を止める。

 一瞬の間をあけて、声を出した。

「・・・あら、阪上君」

 彼は高校の制服の上にコートを羽織り、爽やかな笑顔・・・いや、ちょっと待って、爽やかに見える笑顔、にしよう、とにかくそんな外見で立っていた。

「ひばりセンセー、久しぶり」

 夏より伸びた髪はアッシュ系の色を入れたらしく、ちょっと薄い黒色になっている。お母様似の綺麗な顔にお父様似のすらっとした体。性格の腹黒さを知っていなければ、テレビの中の若手アイドルそのもののような高校生だった。

 天からキラキラと光る粒子か何かが降り注いで彼を輝かせているかのようだ。勿論そんなものはないのだけれど、何にせよ、彼は目立った。すれ違う人や通り向こうの女子高生が彼を見て友達と囁きあっている。

 ・・・あら、ちょっと見ないうちにまた大人っぽくなって。私は黙って見上げながらそう思う。

 阪上君はいつの間にか私の身長など追い越して、私をそれなりに上から見下ろしている。若者は、年齢が低ければ低いほど、ひと夏の成長とは凄いものがあるのだ。

 それにそれに、外でこの子を見たことなど数回しかない。彼の部屋の中の寛いだ姿や顔つきとは違う。家の中か外かでやっぱり人はそれなりに変わるものだ。

 マジマジと男の子を見詰めながら立っていた。

 最後に聞いたのは泣き声だった。だけどその時よりは少しばかり深く低くなった声で、阪上君は黙ったままの私に言った。

「この4ヶ月、元気だった?寒いねー」


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