山神様にお願い
彼はニコニコと笑っていた。私は驚いたけど、あれだけ凝視しておいてまさか今更無視も出来ず、彼に近づいていく。
「阪上君、久しぶりね。どうしてここに?」
君には用がない町でしょう?そういう意味を込めた。賢い彼ならすぐに判るはずだ、私は、驚いてはいるけど、喜んでいないって。
彼は笑顔を崩さないままでまず、私をじーっくりと見た。頭の先からブーツの先までを。じーっと。かなり露骨に。
私はつい、後ずさる。
「な・・・何よ」
「ひばりセンセー、何か変わったね。垢抜けた?何かあった?」
いやいや、君にはそれこそ関係ないでしょう・・・。私は久しぶりにこの子を相手にした時の徒労感を感じてため息をついた。
「褒めてくれてありがとう。さて、それではさようなら、元気でね、阪上君」
そう言って踵を返す。ダメダメ、彼に掛かったら1分も1時間ほどの長さに感じられるのだ。ここで自分から逃げることにしよう、そう決めたのだった。
ところが、彼はその前に、私の手首を掴んでいた。
体が前に進まなくて、自分の手首にまきついている阪上君の右手を見下ろし、私はまた深ーいため息をつく。
全く、最近の高校生は!私は暗い表情で言った。
「・・・・離してくれない?」
「ヤダね。ねえひばりセンセー、デートしようよ」
「しません。それに、私はもう君の先生ではありません」
「じゃあひばり、さん。デートしよ~」