山神様にお願い
「うん、まあ、彼女にとっては心安らぐ環境だったみたいだよね。愛人の子として生まれたから本物の母親には会えず、男ばっかに囲まれて育ち、年頃になってからは視線にも敏感になってたらしいけど、片山さんと住みだしてからは片山さんと母とで、女ばかりでしょ。買い物いったりね、楽しかったらしい」
それを想像して、彼女の為に私は喜んだ。
「・・・そうでしょうねえ」
「で、母がその内言い出したんだよ。もうあなた達、本当に結婚しちゃったら?って」
「あら」
私の一言に店長は頷いた。
「それも正直、俺はどっちでもよかったね。自分は好きな女はいない。店も楽しいけど、組と関係なくなったならもう危なくないし、地元に戻ってもいい。そう思ってたんだ、春までは」
・・・春?そう考えて、私はハッとした。その顔を見て、店長が前で笑う。
「シカが来て、この子は気になるな~って思い出してから、そんなつもりはなくなったんだよ」
かあっと顔が熱くなったのを感じた。でもでも、だけど―――――――――
「で、でも店長!お母さんと娘さん達がそのつもりなら―――――――」
私が焦って舌が絡まりながら言うのを、店長は右手をひらりと振って飛ばす。
「うんにゃ。そのつもりだったのは母達だけ。俺は興味がなかったし、彼女にはちゃんと好きな男がいるんだ。だから、戻って婚約解消したいって言ったら、彼女は喜んでたよ。やったーって」
「そ・・・そうです、か・・・」
私はそう呟いた。