山神様にお願い


「そう、自然なの。あの人は獣なんだから。そんな食欲も満たされた状態で職場でないところに好きな女と二人なんて、好き放題やっていいって言ってるようなもんでしょ。でもシカちゃんはショック受けると思うのよね。あたしとしてはあの二人ならうまくいくんじゃないかって思ってるんだけど、それにしても何事も順番ってあるでしょ」

 よいしょ、とツルさんは立ち上がる。そしてううーんと伸びをした。

「だから、今はトラさんを止めてきて」

 にっこり。

 俺はしばらく言葉を失っていたけれど、ほら、行った行った!とツルさんに号令をかけられて、飛び上がってかけだした。

 ええー!?トラさんがシカさんを気に入ってるのは見て判ったけど、襲うとか、そこまでの話なのか!?一体いつの間に?それにシカさんはまだ・・・いやいや、そりゃやっぱりダメでしょ!

 煩悩と理性でいえば、うちの店長、山神のトラはあっさり煩悩に流されるタイプであるというのは頷ける。つか、あの人に理性という文字はないかもしれない。

 とにかく、俺は新人のシカさんが上司に襲われるかもしれないという情報にビビッたままで砂浜を駆けて行った。走れ走れ俺!もしかしたら大変なことになってるかもしれないんだぞ!

 慌てていた。苛めっ子の店長、恥かしがりやのシカさん、二人について知っている情報が頭の中を駆け巡っていく。

 そして見た!

 山神チームがシートを敷いて椅子を並べ、パラソルを設置しているその場所で!

 寝転ぶシカさんに覆いかぶさっているトラさんの姿を!!トラさんの背中が太陽の光を浴びてキラキラと光っている。


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