山神様にお願い


 一体どれだけの学生に見られたことだろう。図書館で高校生に抱きつかれて悲鳴を上げた私を。友達はほとんど来ていないから大丈夫だろうけど、もしかしたら後輩はいたかもしれない。・・・ああ、変な噂が流れなきゃいいけど――――――

 半泣きになりかけた私が、阪上家の母親を探して周囲を見回すと、こっちを見ている人影を発見した。

「――――――――・・・・・あ」

 声が、漏れる。

 校舎の影になっている場所からこちらを見ている男の人は・・・。

 小泉、君。あれ、あれは・・・仁史君、だよね?

 私の視線が自分に向かっているのが判ったようで、遠くにいた彼がこちらに向かって歩き出した。

 久しぶりに見た小泉君は日に焼けて、髪が短くなっている。そして、今日もスーツ姿だった。

「・・・センセー?」

 私が他の方向を凝視しているのを見て、阪上君も振り返る。そして黙った。判ったのだろう、近づいてくる男が、私の彼氏だって。

 声が届く距離にきて、小泉君は立ち止まった。阪上君の方はちらりとも見ないで、真っ直ぐに私を見ている。

 笑顔はなかった。

 私は少し口を空けっ放しにした状態で、呆然と久しぶりに会った彼氏の顔をみていた。

「・・・仁史君」

「ひばり、久しぶり」


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