山神様にお願い


 店長が両手を合わせる。先に、って言葉が気になったけど、私も続いて手をあわせた。

「・・・頂きます」

 うーん、若干気まずい・・・。店長、笑顔じゃないし、ご飯は一人で食べるのに慣れているから誰かと一緒ってのが・・・ちょっと。

 心の中でごにょごにょと呟いていて、折角のパスタの味もよく判らない。

 美味しかったはずだ。だけど緊張していた私は黙ってひたすら事務的に咀嚼していた。

 気付いた時には食べ終わっていて、ちょっと残念だった。龍さん、すみません。味わえませんでした。口には出さずに謝罪する。下に戻ったときには、美味しかったですって言おう―――――――――――

「ご飯は食えるんだな」

「はい?」

 言葉が聞こえて顔を上げる。そこには片手で顎を押さえて私をじいーっと見詰める夕波店長が。・・・・げ、山神の虎、臨戦態勢??私は少しばかり身を引いた。

「凹んでいるのか何なのか、とにかくぼーっとしてるけど食欲はある、と」

「・・・ええと」

 一面の緑色の中、リラックスした柔らかい顔とは言えない表情で、店長が私を見ている。

 風が通るように部屋の両側についている窓は閉められていて、弱にしてあるクーラーの音が聞こえる。


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